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ヴィルヘルム・ハンマースホイ展@国立西洋美術館

今年の初めにこの展覧会が開かれることを知り、待ちかねていた。しかも国内では巡回しないので東京へ行かざるを得ない。

  • 関係者 2008/01/19 00:30

ごめんなさい。今回は東京の国立西洋美術館だけです。

  • riocampos 2008/01/22 23:44

コメントありがとうございます。
そうですか。仕方ないのでまた東京へ行きます。
フェルメール展と併せて。
ヴィルヘルム・ハンマースホイ展@西洋美<'08/9/30-12/7> - 子子子子子子(ねこのここねこ)

実は既にフェルメール展は別の機会に観覧しており(感想書いてませんm(_ _)m)今回はハンマースホイ展をメインディッシュとして東京へ向かったのであった。
このハンマースホイ展は事前にロンドンを経てきている。そして日本では日経がやたらと広告やらタイアップやら行っている。力の入った展覧会であるのは確かだ。しかし観覧する側としては、そんなに人を集められると混雑して見づらくて仕方ない、などとわがままなことを思ってしまう。
ちなみに英国での展覧会のガイドはpdfで出ている。興味があれば見ておくのも良かろう(すみません読んでませんorz)。

さて。
[f:id:riocampos:20081103092225j:image:w400]
会場である開館前の西洋美に着くと、四・五十人ぐらいの行列がある。三連休の中日なのでこれぐらい来ていて当然であろう。
そしていつものごとく入館後ロッカーに荷物を突っ込み、「静かなる詩情(The Poetry of Silence)」の世界へ入っていく。

この展覧会は(ロンドンでの展覧会のような)時代順ではなくテーマ別の展示になっているのだが、初章だけ初期の作品がまとめて並べられている。

I. ある芸術家の誕生
…初期作品を見て驚かされることは、彼の生涯を通じて繰り返し登場するモチーフのすべてが早くも現れていることであろう。この画家は、当時の流行のスタイルに流されることなく、自分の美意識を生涯守り通した。このセクションは、この展覧会の導入部でありながら、じつはハンマースホイの画業の全容を知ることのできるクライマックスでもある。
(会場キャプションおよび図録p.41より引用)

この第1章を観ていると、たしかにこの画家の静謐な画面構成に取り込まれそうになる。いや、静謐は「穏やかに治まる」なので、かなり違う。
そして続く章を観ていくと、第1章と同じような気配が会場内に漂っているのが分かる。
陰鬱な空、グレーがかった画面。モランディが描く静物画のように、人物が凝り固まって描かれている。精気はない。人工物である建物は質量が主となり、自然物である樹木はそこにあるだけとなり風の動く気配がない。青空が描かれた作品を観て「青空が描けるんだこの人」と少しホッとしたほどである。一方ロンドンの風景を描いた絵では、画面から霧がゆんわり滲み出てくる。雰囲気の合うロンドンに定住した方が良いのじゃないのか、と感じたりした。

だが、野原の風景がまとめて展示してあるエリアでは、それまでと違う感覚を得た。
光だ。
そういえば、ハンマースホイは17世紀オランダ絵画の影響を受けたらしい。当然ながら光の画家レンブラントやフェルメール、そしてデ・ホーホなどの影響があるのだろう。
暗い画面に、目映いと言えないまでも、確かな光が画面の中にある。同時代の批評家は、ハンマースホイの絵から光の表現を注目したともある。
ハンマースホイは、実は光を描く画家だったのだ。画中にあるのは重さではなく軽さなのだ。

そして、彼の自宅の部屋を描いた一連の連作が列挙してあるコーナーへ。
それまでの展示室と異なり、このコーナーには観客が溜まっていた。作品が小品であるということもあるし、やはりこの作家のポイントとなる場所だから、ということもあろう。
この室内画シリーズは、一見したところ同じような絵が並べられているだけのようにも思えるのだが、しかしよくよく観ていくと、何か違和感を感じたり、不思議な感覚にとらわれたりする。それまでの章で観ていたときにも同じ感覚があったのだが、ここでようやくハッキリしてくる。
そう、マグリットやデルヴォーのようなシュールレアリズム的な画面構成。
彼らほど表立って不可解な画像を構成しているわけではないのだが、ハンマースホイの絵には写実ではなく意図的な構成が含まれている。
ハンマースホイの静かな絵には、しかし前衛が濃く含まれているのだ。だからこそ妹を描いたデビュー作でも論争を引き起こしてしまったのだ。今となっては当時の美術界の空気を吸うことができないので細かいニュアンスは分からないのだが、やはり彼の絵には当時の美術界には受け入れがたい前衛が濃く含まれていたのだろう。

ということで、私の解釈。
ハンマースホイは前衛画家である。

観に行って本当に良かった。これだけ大量の絵があればこの結論に達せたが、美術館の常設にハンマースホイが一点あるだけ、とかではこんな事は分からなかっただろう。繰り返すが、本当に観に行って良かった。



おまけ自分用メモ:
この展覧会や雑誌「住む。」のハンマースホイ記事にたずさわった萬屋健司氏が所属するのは、阪大外国語学部(旧大阪外大)デンマーク語専攻であろうと思われる。(いやよく分からんのだけど、今回なんとなく気になる人なので。)
大阪大学外国語学部デンマーク語専攻
ちなみにWikipediaに依ると、デンマーク語が学士レベルで学べる国内唯一の大学だそうな>阪大。